幼少の頃より実父である初代(力石甲人)の仕事を身近にみて育ち、甲冑師としての心構えを学ぶ。父・力石甲人、そして兄の指導の元、修行を重ね「造形甲冑力石」として独立。
国宝鎧を徹底的に研究し、古来の甲冑作りに現代の技術と独自の感性を取り入れ、節句の域を超えた鎧・兜の「美」を表現している。 金具・威糸・造形美。その確かな技術と品質から生まれる逸品は、見るものに感動を与えます。

造形甲冑力石 鎧・兜の特徴

 

(1)金物 〜美しい輝きと芸術性〜

金物類は24金鍍金仕上げ。研磨した真鍮に、銅・ニッケル・24金の三層鍍金が施されています。丹念に研磨された金物は、小さな鋲ひとつにいたるまで、重厚な質感と深みのある輝きを放っています。
鍬形の多くは、裏表とも「鏡面仕上げ」。その艶のある輝きとシャープで流麗なフォルムには、凛とした存在感があります。また、錆や金の剥がれも起こりにくいです。
鍬形の厚みは0,6mm程。一般的なお節句鍬形の半分程の厚さで、揺らすとしなるしなやかさを実現しています。鍬形が木などに当たった際に、しなりによって首などを保護する為、また光の反射などによる美しさを兼ねたものです。
鍬形台などの金具類は、唐草文様などの日本の伝統紋様が精巧な透し彫りなどで彫られており、高い技術と芸術性を誇っています。

八幡神の宿る場所とされる八幡座。外側から葵座・菊座・小刻・玉縁、四枚の金物が隙間なく重ね合わせられています
細やかな唐草文様の透かし彫りの施された鍬形台、台を固定するための鋲も装飾の一部となるようデザインされています。

 

(2)威糸 〜鮮やかな色〜


現在、国宝に指定されている鎧はどれも平安・鎌倉期のもので、赤や白や紫など、とても美しく鮮やかな色目です。力石の威糸は、紐の状態で染めることをせず、髪の毛ほどの元糸を何度も染めて、組紐に編み上げます。むらがなく、色合いが鮮やかなことに加え、よりを掛けながら組紐を編むことでしっとりとした色合いと落ち着いた質感の威糸に仕上がっています。
染色の強さを表す堅牢度は、7級と非常に高く(最大8級・鯉のぼりが4級程度)、何十年と飾り続けても退色しにくいです。

 

威糸の色目の一例

赤糸威
太陽の色である赤は、鎧・兜の色目の中では最高です。赤は魔除けの色として、他の色目の鎧・兜の裾にも必ず使用されています。春日大社(奈良)・櫛引八幡宮(青森)など4領が現存しています。
白糸威
混じり気がない白色糸威は、純粋な心や、染まらない意思の強さを感じさせます。白糸の純度の高さは、力石の最たる技術です。白糸威大鎧は、日御碕神社(島根)に国宝として奉納されています。
紺糸威
褐色とも呼ばれ、勝つにつながる縁起の良い色目です。古来より武士に好まれ、日本の軍服やサムライブルーなどにも採用されています。紺糸威の鎧は、厳島神社(広島)や大山祗神社(愛媛)に国宝として紺糸威大鎧が奉納されています。
紫裾濃
威糸の色が、下にいくにつれてだんだんと紫色に濃くなっていきます。菖蒲の花の色をデザイン化したものです。紫裾濃鎧は、御岳神社(東京)に重要文化財として奉納されています。
赤糸威肩白
鮮やかな赤糸威の上部に白糸を配した肩白兜です。鮮やかな魔除けの赤糸に対して、純真な心を表す白糸の調和が美しい兜です。紅白は日本の文化ではおめでたさの代表です。
紺糸威肩白
他の色の上部に白を配した威を肩白といいます。落ち着いた力強い紺色と、彩度の高い白糸の対比が力強い兜です。紺糸威大鎧は、大山祗神社(愛媛)などに国宝鎧が祀られています。
紺糸威肩赤
力強い紺糸威の上部に赤糸を配した肩赤兜です。勝利の象徴である紺色に魔除けの意味の赤色を配したお祝いにふさわしい色目の兜です。
白糸威沢瀉
白色に生命力の強い沢瀉草(おもだかそう)の葉を象って威した兜です。美しくおしゃれな色合いです。沢瀉の鎧は残欠ですが、大山祗神社(愛媛)に国宝として残存しています。
曙威
曙(あけぼの)とは東の空に朝日が昇る直前の空の変化を表した色です。空がだんだん明るくなっていく様子を下から上にむかって表しています。雅な印象を受ける色目です。
藍裾濃威
藍をベースとし、上部が淡くなるグラデーションの威です。落ちついた力強さを感じる色目で、現代的でモダンな印象の色目です。
 


(3)威糸 〜美しい編み目〜

威の編み方は、職人の技術の違いが表れるところです。細かく、そろって編まれているかは重要なポイントです。力石の威糸は太い組紐を狭い間隔で編むので、動物の毛並みのように密度が濃く均一的です。鎧・兜は前姿だけでなく、後姿の編み目の美しさも大切です。
また、太い威糸を小さな穴に編み込んでいるので、手に持ってもがたつきの無い安定した作りです。裏側も、布などの補強や組み糸の継ぎ目の無い美しい造りです。

一定方向でばらつきがなく、目の詰まった編み目です。吹き返しの裏までしっかりと編み込まれています。
裏側も美しい編み目です。鉢裏は本物同様、刺し子を施し丸く仕上げた布を、浮き張りしています。



(4)造形美 〜八面玲瓏の美しさ〜

部分部分の仕事はもちろん、それをまとめあげる総合力。それが造形甲冑師の力です。八面玲瓏(はちめんれいろう=どの角度から見ても美しいこと)」と言われる鎧の美しさを再現した力石の鎧・兜は、前、横、斜め、後ろ、どこから見ても美しく、張り詰めた緊張感を漂わせています。
鍬形と鍬形台はひと続きの曲線となり、流麗なフォルムを描いています。ふき返しはU字に折り返され、芸術的な模様が描かれています。小札は贅沢に四段で仕上げられ、錣(しころ)は山の裾野のようになだらかなラインを描いています。

 

鍬形と鍬形台は一体化したフォルムで、U字の曲線を描いています。ふき返しは鹿革に細やかな文様が描かれています。
後頭部から首にかけてを守る錣(しころ)は、贅沢な四段小札・笠のようになだらかに広がる笠じごろ仕上げです。



(5)時代考証 〜国宝鎧の用と美〜

平安時代末期から鎌倉時代、騎射戦に適した実践的な機能「用」と装飾的な「美」を兼備した大鎧は、日本甲冑の絶頂期を迎えます。鉄と韋と糸との調和によって形作られる日本甲冑の美しさは、世界のいずれの国の武具にもみられないものです。 力石の鎧・兜は、国宝鎧の甲冑技法や造形を研究し、現代の技術と独自の感性を取り入れ、鎧・兜の「用と美」を表現しています。